ショウブ(サトイモ科・菖蒲)
別名 白菖、軒菖蒲(のきあやめ)、菖蒲草(あやめぐさ)、水剣草(すいけんそう)など

五月五日の端午の節供は「菖蒲の節供」とも言われます。その香りと形状から祓い・厄除けとして用いられてきた菖蒲は、サトイモ科であって、アヤメ科の花菖蒲とは異なります。菖蒲と花菖蒲の違いは、香りの有無もありますが、菖蒲は水辺に自生し、葉の中央に隆起筋が入っています。花菖蒲は山地の乾いた草原に自生します。花として鑑賞する場合は水辺に植えてあることもあります。菖蒲は芽出しの頃、根元が赤く色づくので、区別がつきやすいです。

菖蒲の葉を近づけたり、ちょっと傷つけて嗅いでみると、強い香気があり、葉が剣の形をしていることから、「水剣草」とも呼ばれています。これと蓬を一緒に束ねて、門や玄関の柱などに吊るす風習があります。以前、月遅れの六月五日頃、長野の善光寺を訪れた時、門前の宿坊の門や柱に、菖蒲と蓬を束ねて奉書を巻き、紐で結んで吊るしてありました。民家の柱にも吊るしてあり、今年一年の厄除けを皆が願っているのだと思いました。菖蒲と蓬を合わせて使うのは、両方の強い香りで邪気の力が相乗されると考えられるからでしょう。

菖蒲は解毒作用もあり、切り傷などの民間薬としても用いられます。葉や根を刻んで浸した液は、打ち身にも効果があるといわれています。菖蒲酒を飲む風習も残っています。薬効のある植物が節供に使われることが多いのも特徴です。子どもの頃、寝るときに母親から菖蒲の葉を渡され「枕の下に敷いて寝なさい」と言われて、一晩寝たことが思い出されます。香りで邪気を払い「無病息災」を願う親心だったと思います。香りで心地よい眠りを誘ったのかもしれません。頭を冷やし、邪気を払うとして枕の下に置いたりしたようです。長い葉を頭に巻いて遊んだりもしました。

菖蒲の花は、アヤメ科の花菖蒲と違い、寂しく目立たない花です。つくしのような淡黄色の花穂がつきます。水辺に群生している菖蒲の根元をよく見ないと、その姿を見つけることは困難です。丈も短く、長くスーと伸びた美しい葉からは想像しにくい花です。花菖蒲のような華やかさもなければ、花材として活けられることも少なく、菖蒲湯としてお風呂に入れて、香りと厄除けをする役目が多いと思います。

端午の節供には店頭に売られる菖蒲を求め、長く伸びた菖蒲の葉と蓬を束ねて、菖蒲湯に入ってみてください。ゆっくり湯船につかれば、心地良い香りが体を癒してくれます。健康維持のためささやかな楽しみ方をしてみてはいかがでしょうか。

 

投稿:染子